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【第5回】2022年度公開講座「溶解する帝国——ロシア帝国崩壊を境界地域から考える」
日 時:2022年5月23日(月)18:00−20:00
演 題:まつろわぬ協力者——「巡礼」で読み解く中央アジア遊牧社会
講 師:秋山 徹(北海道教育大学教育学部釧路校・准教授)
要 旨:
ロシアが多数の非ロシア人を包含する多民族国家であることは周知の通りです。異民族が暮らす広大な空間を征服・統治する上で、在地の非ロシア人エリートの協力が必要不可欠でした。近年、彼らの多面的な活動の実態が明らかになってきました。とくにロシアに対する彼らの「協力」とは、前者の「道具」となることばかりを意味せず、むしろ「ロシアを利用する」といった側面もありました。それゆえ、帝国の崩壊を考える際にも、在地エリートの動向が重要な鍵を握っていると考えられるのです。

本講義は、中央アジア遊牧社会――カザフ、クルグズ(キルギス)――に着目し、ロシア統治下におけるリーダーたちの変容を検討します。このことを考える際に着目したいのが「巡礼」です。巡礼というと宗教的なものが想起されますが、本講義では「人の移動」といった広い意味合いを念頭に置いて使用します。遊牧社会はその名が示す通り、定期的な移動を含む生活様式であり、ロシア支配のもとで遊牧民が行政境界によって従来の移動を制限されるようになったことは確かです。しかし、だからといってロシア支配のもとで遊牧社会のモビリティが著しく制限されていたと考えるのは一面的です。実際のところ、エリートを中心に広範な移動が行なわれていました。こうした「巡礼」は大きく四つに分類することができます:軍事巡礼、行政巡礼、教育巡礼、宗教巡礼。ロシアは軍事侵攻に当たって、遊牧民の機動力を活用するとともに、現地エリートの中には通訳や書記として植民地行政府に勤務する者も少なからずおりました。ロシアは支配の拠点となる都市にギムナジアに代表される教育機関を設置しましたが、現地エリートの中には子弟をそこで学ばせる者もおりました。最後に、19世紀末から20世紀初頭にかけて中央アジアのカザフやクルグズの間でも、帝国支配のもとで敷設された鉄道や蒸気船といった近代的インフラを活用して、メッカ巡礼(ハッジ)が流行しました。

このように、これら四つの「巡礼」はいずれも、ロシアをはじめとする帝国権力の浸透と密接に関連した現象でした。それではこうした巡礼は現地エリートにどのような影響を及ぼしたのでしょうか。出身地を離れ、様々な地域での経験、教育および人的交流を通じて、俯瞰的な視野を備えた近代的知識人を輩出しました。彼らは、既存の部族アイデンティティを超えたより大きなまとまり、すなわち民族共同体を想像し、ナショナリズムの担い手となり、20世紀初頭になるとカザフ人を筆頭に自治運動を展開してゆきました。しかし、「ロシア人のためのロシア」、つまりロシア民族主義的気運が強まる20世紀初頭のロシア帝国は、彼らの声に柔軟に耳を傾けるだけの包容力を喪失しつつありました。同時期に政府が推進したロシア人農業移民政策をめぐって、ロシア権力と現地エリートの間の相互不信はより先鋭化してゆくこととなりました。

May 23, 2022 06:00 PM in Osaka, Sapporo, Tokyo

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