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第1回 10/4(月)「19世紀ロシアのメロドラマ」安達大輔(北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター)
この講義では、ハッピーエンドをお約束とする19世紀初頭の古典メロドラマから、女性の奔放な身体を舞台とした悲劇を描き出す20世紀初頭のサイレント映画へという、ロシアのメロドラマ的想像力に起こった変化の一部を、三段階に分けて見てゆきます。

ロシアにおけるメロドラマの歴史を考える際にまず留意すべきことは、それがフランスから輸入されて大流行したのが1830年代だったということです。この時期本場フランスでは、ピクセレクールに代表され、ハッピーエンドで終わる勧善懲悪の筋をもつ第一期(古典メロドラマ)から、道徳よりも恐怖などのセンセーショナルな感情表現を重視し、時には悲劇的なエンディングも辞さない第二期へとメロドラマの作風に変化が起きていました。ユゴーやシュー、バルザックら人間と社会の暗部を描いた「暗黒小説」に熱狂していたロシアの作家たちは、そうしたフランス・ロマン主義の一部としてメロドラマを受け入れたのです。ロシア正教と結びついた皇帝による専制政治が行われていた状況下で、聖なるものの喪失に対する補償(ポスト宗教)というメロドラマの性格やそのブルジョア的な道徳観(世俗性)にリアリティを見い出すことは難しかったようにも思えますが、当時耳目を集めたのはメロドラマのセンセーショナルな側面でした。

しかし、ゴーゴリやレールモントフらロシアの作家たちのフランス・ロマン主義に対する熱狂が醒めるのも早く、それとともにメロドラマも、ロシアの生活が描かれていない外国からの輸入ものと厳しく批判されます。悲劇/喜劇という伝統的な分類に収まらない第三の演劇ジャンルとして「ドラマ」と同一視されることもあったメロドラマが、ナイーヴな観客受けを狙った陳腐な演し物という意味合いを帯びるのもこの頃です。こうして19世紀ロシアにおけるメロドラマは、二手に分岐した道を進むことになりました。レパートリーの限られていた帝室劇場の舞台で重宝されフランスからの翻訳ものとしてジャンルを確立する一方、ロシア語による創作は発展せず、「メロドラマ的想像力」の否定的なイメージが舞台を飛び越えて小説などさまざまな領域で流通しはじめます。

1860年前後にはじまった大改革期はジェンダーを含む社会の激動の時代ですが、演劇界ではメロドラマの見直しが起こり、演劇を民衆に開かれたものにするためにその要素が取り込まれました。それまで排除されてきた女性の過剰な身体性が前景化されるとともに、権力によっては抑えきれない民衆の力のシンボルと読み替えられることで、従来はメロドラマと対立すると考えらえてきた悲劇を取り入れながら、それを乗り越えるものとしてのメロドラマの読みが提示されたのです。こうして女性の身体を媒介にして、悲劇を内包しつつそれが(社会的正義の勝利という)ハッピーエンドに回収され、共感可能な道徳性を再び身にまとう新たなメロドラマ的な想像力が立ち上がることになりました。

Oct 4, 2021 06:00 PM in Osaka, Sapporo, Tokyo

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Speakers

安達 大輔
准教授 @北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター