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【第7回】2022年度公開講座「溶解する帝国——ロシア帝国崩壊を境界地域から考える」
日 時:2022年5月30日(月)18:00−20:00
演 題:ウクライナとロシアーー南西諸県におけるナショナリズムの競合
講 師:村田 優樹(ウィーン大学歴史文化学部・博士課程)
要 旨:
キエフを中心とするドニプロ川流域は、かつてロシア帝国に属し、その地理的位置から南西諸県と呼ばれていました。本講義では、この地域で帝政末期に活発化した二つの民族運動、ウクライナ・ナショナリズムとロシア・ナショナリズムの展開について解説します。

本講義は三部構成です。

第一部では、ここ数十年の欧米や日本における研究動向に触れながら、この地域の民族問題を考える見取り図を提示します。このテーマは、自治や独立を求めるウクライナ人と、強権的支配で「ロシア化」を進める帝国権力との対立関係として、長らく研究されてきました。しかし、近年では、帝政末期のキエフにはウクライナをロシアの一部と考えるロシア・ナショナリスト組織が存在したこと、実は現地の民衆ははっきりとした民族意識を持っていなかったこと、帝国政府の政策は一面的な「ロシア化」よりももっと複雑であったこと、などが指摘されています。こうした議論を踏まえ、本講義では、この地域の民族問題を、民衆の忠誠心と首都のエリートの好意的政策を勝ち取るための、ウクライナ・ナショナリストとロシア・ナショナリストの競合関係として捉えていきます。

第二部では、同時代の出版物を引用しながら、ウクライナ・ナショナリストとロシア・ナショナリストの組織的運動とその主張を跡付けます。前者は、ウクライナ人が太古から存在する「民族」であり、固有の歴史・文化・言語・習俗をもつと考え、ロシア帝国のなかでウクライナ人が多数を占める地域に自治が導入されるべきだと主張しました。他方、後者は、ウクライナ人やウクライナ語というものは存在せず、あくまでも単一のロシアの枝葉にすぎないと述べ、自立を求めるウクライナ・ナショナリストを分離主義者だと攻撃しました。

第三部では、ウクライナとロシアのナショナリストの競合関係が帝政末期の社会で具体的にどのように現れていたのかを、1914年2月に起こった一つの事件を題材に見ていきます。この事件とは、ウクライナの国民詩人とされるタラス・シェフチェンコの生誕百周年記念祭を帝国当局が禁止したことをきっかけにキエフで起きた街頭デモと、それに対するカウンターデモです。かつてウクライナ人民族意識の発現とされてきたこの事件が、実はキエフにおけるウクライナ・ナショナリストとロシア・ナショナリスト双方の「弱さ」、また民族問題についての帝国当局のプラグマティックな立場を示すものであったことを、当時の新聞記事や警察の事件記録から分析していきます。

民衆的基盤の弱さと民族対立の本質化を避ける帝政の政策により、ウクライナ・ナショナリズムもロシア・ナショナリズムも、帝国の崩壊をもたらす根本的な原因になることはありませんでした。しかし、帝国が崩壊の危機に直面すると、民族集団は帝政に代わる権力の主体として現れることになります。本講義では、最後に、第一次世界大戦以後の帝国の実際の崩壊過程とナショナリズムの関連について言及したいと思います。

May 30, 2022 06:00 PM in Osaka, Sapporo, Tokyo

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